こんにちは。八王子市の行政書士 野嶌孝文（のじまたかふみ）です。
１ 嫡出子とはなにか
嫡出子とは、婚姻関係にある男女間に懐胎・出生した子をいいます。
２ 嫡出の推定
生まれた子が婚姻中に懐胎し、それが夫の子であるかは立証が困難な場合があります。そこで、民法は通常の場合を想定し、生まれた子の嫡出性を推定することにしました。この推定が及ぶ子を「推定される嫡出子」といいます。
①妻が婚姻中に懐胎した子は、夫の子と推定する（民法772条1項）。
②婚姻成立の日から200日後又は婚姻の解消若しくは取消しの日から300日以内に生まれた子は、婚姻中に懐胎したものと推定する（民法772条2項）。
３ 父を定める訴え
父を定める訴えとは、再婚禁止期間（６ヵ月）の規定に違反して再婚をした女性が出産した場合において、上記の規定によってその子について嫡出の推定が重複する場合には、裁判所がその子の父を定めるとするものです。父が定まるまでは、「父未定の子」といわれます。
たとえば、前婚の解消後30日後に再婚し、再婚後250日目に出産すると、前婚の解消からは280日目に生まれ（300日以内）、後婚成立の日から250日目に生まれた（200日後）ことになるので、前夫と後夫の双方の嫡出子であると推定されてしまいます。
４ 嫡出否認の訴え
（１）嫡出の否認とはなにか
嫡出の否認とは、嫡出推定される子に対して、夫が父子関係を否定することです。推定される嫡出子について夫がその父子関係を否定しようとする場合は、嫡出否認の訴えによらなければならないとされています。
（２）嫡出否認の訴え
嫡出否認の訴えの原告は、原則として夫です。夫が成年被後見人の場合は成年後見人、夫が死亡している場合は、その子のために相続権を侵害される者、その他夫の三親等内の血族です。
子又は親権を行う母を被告として訴えを提起します。親権を行う母がないときは、家庭裁判所が特別代理人を選任しなければなりません。
（３）嫡出の承認
夫が、子の出生後において、その嫡出であることを承認したときは、嫡出否認の訴えを提起することができません。「出生届」をしただけでは夫が嫡出であることを承認したことにはならず、依然として嫡出否認の訴えを提起することができます。
（４）嫡出否認の訴えの提訴期間
嫡出否認の訴えは、夫が子の出生を知った時から１年以内にこれを提起しなければならない（民法777条）。ただし、夫が成年被後見人であるときは、民法777条の期間は、後見開始の審判の取消しがあった後、夫が子の出生を知った時から、これを起算する（民法778条）。
５ 推定が及ばない子
婚姻成立の日から200日後又は婚姻の解消若しくは取消しの日から300日以内に生まれた子（「推定される嫡出子」）であっても、妻が夫によって懐胎する可能性がない事実がある場合には、その子の嫡出性は推定されません。
裁判所の判断（判例）も、婚姻解消後300日以内に出生した子であっても、離婚届出に先立ち約２年半以前から夫婦が別居し、夫婦の実態が失われていた場合には、嫡出性の推定を受けないとしています。
嫡出推定が及ばない子に対して夫は父子関係を否定するには、嫡出否認の訴えではなく、親子関係不存在確認の訴えによることになります。
６ 推定されない嫡出子
推定されない嫡出子とは、婚姻成立後200日以内に生まれた嫡出子です。
判例は、内縁の妻が、内縁関係の継続中その夫により懐胎し、適法に婚姻をした後に出生した子は、たとえ婚姻の届出後200日以内に出生した場合でも、出生と同時に、嫡出子たる身分を有するとしています。この判例では婚姻前に内縁関係のあること条件としていますが、戸籍実務上は、婚姻前に内縁関係があったかどうかを調査することができませんので、婚姻後に出生した子はすべて嫡出子としての届出を受理しています。
推定されない嫡出子に対して、夫が父子関係を否定する場合、判例は、嫡出否認の訴えではなく、親子関係不存在確認の訴えによるべきであるとしています。しかし、その子の嫡出性に争いがある場合には、戸籍上の父に対して親子関係不存在確認の訴えを提起することなく、実の父に対して強制認知の訴えを提起することができるとしています。
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